■PEOPLE 01■Atelier NUK 佐々木 幸史郎さん

こんにちは。

カフネの改装中に、店主にはやりたいことがありました。

それは、今までや今現在カフネに関わってくれている素敵な人たちを、きちんと紹介すること。

今日はその第一弾として、カフネの改装を設計から施工まで担ってくれている「Atelier NUK(アトリエ ヌーク)」の佐々木幸史郎(ささき こうしろう)さんをご紹介します。

岩手県大槌町(おおつちちょう)の吉里吉里(きりきり)で生まれ育った幸史郎さんは、部屋の模様替えが好きな中学生だった。当時流行っていた雑誌などをきっかけに「デザインすること」に興味を持ち始め、将来デザインがしたいなら文系よりは理系を学んだ方が良いのでは、と普通高校の理系クラスに進学。進路や将来について考えていた高校二年生の時、母親が教えてくれた一冊の本が幸史郎さんの転機になった。

その一冊とは宮大工の西岡常一(にしおか つねかず)さんの著書「木に学べ」。西岡氏は、法隆寺や薬師寺などの再建を牽引した棟梁で、同書は専門書というより「人をどう育てるか」という話が説かれているそうだ。幸史郎さんは、この本に出会い「デザインすることだけではなく、自分の手でモノをつくるところまでやりたい!」という強い気持ちを抱き、建築という世界に一気にのめり込んでいく。

高校卒業後、宮大工の会社に弟子入りしたいという気持ちもあったが、人として生きていく上で、学問もしっかりと学びたいという思いから埼玉県行田市にある「ものつくり大学」に進学。同大学は4年制の大学でありながら、総合機械学科、建設学科などの専門的な基本技能を在学中に学べるのが特徴で、学問を学ぶと同時に、職人さんを講師に迎えた実習授業を通して、幸史郎さんは技術を習得していった。

在学中、京都の宮大工会社の就職試験を受けるも、中卒・高卒が当たり前の職人の世界。大卒での受験者は自分だけ、という現実に打ちのめされることに。同時に、自分が何をやりたいのかを突き詰めて考えた時「技術・技能だけを学びたいわけではない」という想いに気づく。全体像が見えない大きな会社よりも、一昔前は当たり前だった、設計から施工に加え、積算、計画、職人の手配まで、施主と顔を合わせて話し合いを重ねながら、全てをまとめて指揮し進めていくスタイルへの憧れも募っていたという。この考えは、今の「Atelier NUK」の思想にも繋がっている。

卒業後、仙台市内の大手建築会社に就職し、その後、大学在学中に、インターンシップでお世話になった白石市の工務店からご縁があり転職。23歳の時だった。材木に墨をつけて刻む、手刻みという技術をはじめ、昔ながらの技術を学び、身に着けながら腕を磨いた。

2011年。震災を機に、幸史郎さんは、社員としてお世話になっていた工務店を離れ独立する道を選び、故郷である岩手県に戻る。両親は転勤で秋田県暮らしで無事だったが、当時実家の1階は住める状態ではなかったという。両親の「岩手に戻って暮らしたい」という気持ちに応える形で、実家の一階の修復・再建に着手した。自ら、文字通り「全てをおこなう」幸史郎さんのスタイルはここから始まった。

 

2014年、設計事務所の登録をした折に、屋号を「幸 建築工房」から、現在の「Atelier NUK(アトリエ ヌーク)」に変更。「NUK」は「日常を豊かに暮らす」の英字頭文字からイメージした言葉。震災を通して、今まで考えていたことや価値観が大きく変わり、『何よりも豊かな日常を創造することに重きをおいて生きていきたい』という強い気持ちが芽生えた。屋号にはその想いが込められている。

2017年頃から、数カ月間沖縄に滞在し友人の建築事務所をつくったことがきっかけとなり、沖縄に縁が生まれ、2019年3月に沖縄県北中城村に事務所をつくり、拠点を沖縄に移した。

「建築は追求したいし、勉強し続けたい。だからといって、これだけに没頭するのは何だか違うなと。家族とのかかわり、人とのかかわりを大切に、コミュニケーションを取りながら、共に生きていきたいですね。」

  共に暮らし、共に豊かな日常を創っていく。

「Atelier NUK(アトリエ ヌーク)」は創造活動の会社なのだ。

現在改装中のカフネで、私たち、かかわる人たちとコミュニケーションを密にとりながら、柔軟にアイデアを出し、日々丁寧な仕事ぶりで現場を引っ張っていってくれる姿は頼りがいしかありません。どこまでも真っ直ぐで、誰よりも熱いこころと愛をやさしさの奥に抱えた幸史郎さんのつくる空間は、本当に温い。(ぬくいんです)

まだ改装途中ですが、それでも私には、再オープンした時に「新しいカフネ」でたくさんの人が集い笑ってくれている未来が容易に想像できます。みんながより良い場所になるように、と動いてくれているし、幸史郎さんのつくる場所は、人をあたたかく包み込んでくれるとわかっているから。

「建物の価値は大きさや目に見える豪華さではなく、使われる時間の中で共有される思い出の多さにより生み出されていくもの」

幸史郎さんが綴っていたこの言葉の意味を、カフネの改装を通して日々強く感じています。時間の共有の中で生まれる思い出は、形もなければ、高価なものでもありません。でも、だからこそ、色褪せず、いつまでも残り、尊いのだと思います。

カフネは私たちの暮らしの延長線上であり、Atelier NUKの暮らしの延長線上であり、みんなの日常を豊かに彩れる場所であり続けたい、そう願います。

 

 

 

衣服を選び、纏うこと。

食材を選び料理し、食べること。

日々の暮らしそのものが「人としての行為のデザインである」

              ――Atelier NUKのホームページより

 

 

佐々木 幸史郎

Atelier NUK代表。

好きなアイスの味はチョコミント。

1984年 岩手県出身(宮城県生まれ)

2011年 一級建築大工技能士取得、独立し個人名で活動開始

2014年 Atelier NUK建築事務所 設立、岩手県建築士事務所 登録

2018年 岩手県建築業許可 登録

2020年 沖縄県建築士事務所 登録

2022年 沖縄県建設業許可 登録 

 

 

***店主のひとりごと***

カフネ改装の前になりますが、実は我が家のダイニングテーブルも幸史郎さんにお願いしました。味気ないマンションに、一瞬で命が宿ったような存在感のあるテーブルは我が家の自慢です。

人生は選択の連続です。大きなものから、小さなものまで、いろいろな選ぶ権利が私たちにはあります。だからこそ、自分が何を思っているかによく向き合い、どう暮らしていきたいかを考え、「選ぶこと」を意思表示の手段としていきたいと常々思っています。

この、テーブルもそう。大手量販店で買えば、すぐに安くそれなりのものが手に入るけれど、私は「人生を共に歩める」テーブルが欲しかったんです。納品されたその日から、素晴らしい木の香りに癒されているし、これからもずっと日常に寄り添ってくれると確信しています。

 

写真提供 タイラヒロ&佐々木さやか